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■  もう 泣けなくなってしまった
先日知った吉原幸子の詩
とても気に入ってしまったので、とりあえず転記。
女性もこういう喪失感みたいのあるんだ!
むしろそれは女性だからなのか?

ゆっくり読み返し、味わいながら考察してみたい。
 
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吉原幸子 「喪失」より


  -小ちゃくなりたいよう!

  -小ちゃくなりたいよう!
 

 ひどく光る太陽を 或る日みた 煙突の立ちならぶ風景を 或る日みた

 失ったものは 何だったろう 失ったかわりに 何があったろう

 せめてもうひとつの涙をふくとき よみがえる それらはあるだらうか

 もっとにがい もっと重たい もっと濁った涙をふくとき  わたしの日々は鳴ってゐた


   -大きくなりたいよう! 

   -大きくなりたいよう!
 

  いま それは鳴ってゐる   

  -小ちゃくなりたいよう!
 

 空いろのビー玉ひとつ なくなってかなしかった

 あのころの涙 もうなけなくなってしまった

 もう 泣けなくなってしまった

 そのことがかなしくて いまは泣いてる   
もう 泣けなくなってしまった_f0121630_2115341.jpg

吉原幸子 「喪失ではなく」


 大きくなって 小さかったことのいみを知ったとき

 わたしは”えうねん”を ふたたび もった

 こんどこそ ほんたうに はじめて もった

 誰でも いちど 小さいのだった わたしも いちど 小さいのだった

 電車の窓から きょろきょろ見たのだ けしきは 新しかったのだ いちど 

 それがどんなに まばゆいことだったか 大きくなったからこそ わたしにわかる
 

 だいじがることさえ 要らなかった 子供であるのは ぜいたくな 哀しさなのに

 そのなかにゐて 知らなかった 雪をにぎって とけないものと思いこんでゐた

 いちどのかなしさを いま こんなにも だいじにおもうとき

 わたしは”えうねん”を はじめて生きる
 

 もういちど 電車の窓わくにしがみついて

 青いけしきのみづみづしさに 胸いっぱいになって

 わたしは ほんたうの 少しかなしい 子供になれた 

(えうねん=幼年)
by yabkoji | 2007-10-26 12:47 | 雑文
  
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